今年最後の里山帰農塾 第41期「3・11後、理想の家に住む」を11/4(金)~6(日)に行なった。

参加者の年代は30代、40代、50代、60代と幅広く、職種もIT会社の社長、元大手広告代理店、大学教授夫妻、OL、元大学講師、元ナース、畜産関係の県職員とバラエティーに富んだ受講生が集まった。
年齢、性別、職業を超えた人々が活発に意見を交わし、これからの社会、そしてこれからの人生を見つめる場となりそれぞれ大いに刺激し合い、熱気あふれるとても楽しい塾となった。
開校式に参加した登紀子さんは、先月出版したばかりの僕との共著「スマイル・レボリューション」について熱く語り、受講生もしょっぱなから熱気あふれる議論を交わしかなり盛り上がった。

敗戦、満州引き上げ、日米安保、学生運動、1968年、カウンターカルチャー、投獄、ベトナム戦争、枯れ葉剤、ケネディ暗殺、成長の限界、オイルショック、原発、高度経済成長、大地を守る会、鴨川自然王国、そして3・11と登紀子さんの世代が経験してきた時代を彼女が体感してきた言葉で語り、この時代とは一体何が起きているのか?を受講生と真剣に語り合った。


その後、簡易炭窯で炭焼きを行い、ドラム缶の炭窯に割った雑木を詰め、火を燃やし泥で窯に蓋をした。
あとはスタッフの小原さんにお願いし、煙の色を見ながら温度調整を管理してもらい窯止めだ。

次は「家」について高野孟さんの講義だ。
戦後、日本の家文化は「変な西洋風」となり、おかしな家ばかりになってしまったという。自然と切り離され、使いづらく狭いキッチンとなり、家から火が消えてしまった。もう一度、「暮し」という視点を持ち込み「家」を再構築すべきであると。キッチンから台所へ、家族の中心はテレビでなく炎を、食と自然をつなぐ土間を、と彼の鴨川の家づくりは、一度江戸までの日本に立ち帰って、日本の自然環境・文化にふさわしい「日本型の家」を目指し建てられたそうだ。
そして、1800坪の薮を開墾し山水を引き4年前にコンセプト通り理想の家を建てた。その際、奥さんの希望を全面的に取り入れ、とてもモダンな洗練された住宅に仕上がった。ご主人のコンセプトと奥さんの美意識が融合した家は、まるで里山美術館のような美しい生活空間だ。
初日の最後は僕の講義「スマイル・レボリューション」だ。
登紀子さんの講義の続きといった流れで、1968年生まれの僕が自分探しをしていた10代後半から20代後半のストーリーから始まった。
ストリートペイント、ハーレイ・ダビッドソン、アメリカへの旅で先住民と出会い彼らの精神性「ミタクヤオヤシン」に影響を受け、その後東京で様々な仕事を経験し、旅のビジョンを見て、世界放浪、インドのエコビレッジ、砂漠への旅、自然農を実践するイタリアの農夫に出会い衝撃を受けヨーロッパから日本へ帰国し、農村を巡り鴨川の古民家へ辿り着いた。それから棚田の村に飛び込み、自給農を始め、子育て、地域通貨の立ち上げ、村の長老達との交流、棚田オーナー制、自然王国での都市農村交流、3・11後の東北支援活動に至までのヒストリーをお話しした。
これからの社会変革は上を変えるのではなく、下から僕らから変わる事から始まる。一人ひとりが笑顔で暮らす事から、スマイル・レボリューションが起こるという21世紀のほほえみの革命についてお話した。
この講義は、大いに盛り上がり夜の10時過ぎまでディスカッションが止まらなかった!

翌日は朝から井上さんのお宅にお邪魔し、移住話しをして頂き、彼の指導のもとそば打ち体験をした。井上さんは自然王国に8年通い、その中で理想の土地に出会い、八王子市役所を早期退職して理想の家を建てた方だ。井上さんの家は全て地元の木を使い、壁は土壁で100%天然素材の素晴らしい民家である。
目の前には自給用の田畑があり、食の自給率はなんと90%を超えるという。米、野菜、味噌、醤油、そして塩や麹までつくっているのだ!
かといっていたって自然体で、ストイックな修行僧のような生活をしているわけでなく、奥さんと2人で楽しんで自給生活を営んでいる。


午後は、農園で700~800本のタマネギの苗を植えた。
植物から出来たバイオマルチが張られた畝に、一本一本丁寧に植えて行く。植えたあと、霜対策としてもみがらを布団のように苗にかけてやる作業を行った。
サクサクと作業が進み、時間が余ったので隣の畝の草取りも行なった。
空の下で土を触り、参加者の皆さんとおしゃべりしながら手を動かし、時には黙々と行なう農作業はとても気持ちが安らぐものだ。
農作業は動く瞑想でもある。
再び自然王国へ戻り、下郷さとみさんの講義である。さとみさんは、「百一姓(ひゃくいっしょう)」という屋号の半農半ジャーナリストだ。7年前に東京から移住して、開墾を続け3回も田んぼを変え、2年前やっと理想の土地を見つけたのだ。そして、1000坪の荒れた土地をパートナーのヘジナウドさんと2年かけて開墾し、現在馬と暮らす理想の家を建設中だ。色々な問題を抱える農村だが、さとみさんの夢に向かって進んで行くバイタリティーにみなさん驚いていた。

続いて東京から駆けつて来た農文協の「季刊地域」編集長の甲斐良治さんのTPPについての講義である。東京で反TPPの大きなデモに参加してきたばかりの甲斐さんは、TPP参加を進めようとする野田首相に怒りを表していた。
また3・11後の日本の社会状況は災害便乗型資本主義が起きていることを鋭く指摘し、
書籍「ショック・ドクトリン」(ナオミ・クライン著)を紹介して頂いた。災害時のどさくさに巨大企業が乗り込み、根こそぎ利益を持って行きその地域の経済圏を支配してしまうという事は、アメリカでは良く行なわれている手法だという。
戦後何度もひどい政策に振り回されて来た日本の農業はなんとか持ちこたえて来たが、今回のTPPに参加すると今度ばかりはトドメを刺されるかもしれないという。
甲斐さんは、医、食、教育は営利にしてはいけないとおっしゃっていた。
そして家族との営み、生存のための営みである農林水産業を守る地域づくりが
必要であると力説していた。
その可能性のひとつに直売所があると。
食管法が廃止された90年代半ばから始まった直売所は本当に小さな取り組みからスタートした。しかし、それが今では全国に大小様々な直売所が何万店もつくられとても賑わっているという。グローバル巨大企業に振り回されずに地域が自立できるために、直売所は地産地消を推進する力になるだろうと。

夕方、甲斐さんの講義のあと、大山千枚田で行なわれている棚田の夜祭りへ見学に行った。ここ数年毎年行なわれている鴨川の人気イベントだ。里山の竹を整備して竹を切り出し、そこに鴨川旅館組合から頂いた天ぷら油の廃油でロウソクをつくり、それを竹に入れ松明とし、その松明3000本を千枚田の棚田の畦に灯すと、夜の里山は幻想的な光の彫刻となる。鴨川中からボランティアが集まり、街を上げての里山大イベントだ。
参加者のみなさんはその光景を見るとあまりの美しさに息を飲んで溜め息を漏らし、その光の彫刻を堪能した。
大山千枚田から再び自然王国へ戻りその夜、交流会が始まった。帰農塾2日目の夜は唯一お酒の出る日で、スタッフの石井さんがつくる里山のおいしい手料理を頂き、皆さん大いに会話が弾み、2次会はたき火を囲み盛り上がった。

翌日は朝から、人気の移住者訪問ツアーだ。
今回は「家」がテーマであるので、色々なタイプの家を訪問した。
最初は2日目に講義をして頂いたさとみさんとヘジナウドさんの建設中の自宅と開墾された棚田を見学した。やはり話しを聞くだけではわからないものだ、広大な棚田をたった二人でコツコツと切り開き再生しているその現場に来て参加者の皆さんはとても感動していた。
ヘジナウドさんの言葉が印象的だ。「僕は日系3世のブラジル人です。ヘジナウド岡田と言います。昔、おじいさんに聞きました。岡田ってなんて意味?そしたら、ここのこと!棚田なんだよね!」「この棚田は、僕ひとりで開墾しているんじゃないよ。ここを切り開いたここのご先祖様と一緒に開墾している。昔ここにいた人が、ここが蘇るのをよろこんでいるよ。」ポルトガル語なまりの日本語で話すヘジナウドさんの言葉に涙を流す参加者もいた。
そして、里山、与那国馬、ニワトリ、ヤギ、カフェ兼仕事場兼自宅という棚田と生活と仕事と生きる事が一体になった空間を7年かけて二人でつくっている姿に皆さん大いに刺激を受けたようだ。鴨川では国籍、民族、文化を越え、新しい農村コミュニティが生まれつつある。
次に僕の暮らす築150~200年(大家さんもよくわからないそうだ)の古民家へ見学に行った。12年前にボロボロの状態の古民家へ越して来て、暮らしながらコツコツと改修し、今も進行中の家を見学した。地域通貨「安房マネー」の仲間にも手伝ってもらい、一人では出来ないことを鴨川のコミュニティで支え合って出来るようになった暮らしぶりを見学して頂いた。

その後、高野さんのお宅へ訪問し、奥さんにも鴨川暮らしの話しを聞き、里山美術館のような美しい家を見学させて頂いた。
駐車場からゆるやかなアプローチを登り、無垢の木の大きな扉を開くと広い土間があり、その真ん中に大きな松の木の3角形のテーブルが鎮座し、南向きの大きな窓から広いテラスへ出られ、緑あふれる広い庭へと続いている。モダンアートや民芸品等がセンス良く飾られた土間には薪ストーブがあり、そのままフラットに広い台所と美しいトイレへとつながっている。
一段上がって、奥へお邪魔するとバスルーム、里山を望む書斎、寝室となり、現代的で洗練された美的センスだがコンセプトは江戸の暮しなので、とても落ち着く雰囲気である。
ここもさとみさんと同じように、高野さんが1800坪の荒れ地を開墾して、建てた家だ。
最後の訪問は、廃材と廃バスで建設中の岩田さんの家へお邪魔した。
去年、里山帰農塾に参加した岩田さんは東京でのサラリーマン生活に終止符を打ち、
移住された方だ。家族会議で了解のもと、奥さんと子供は東京で暮し、なんと奥さんが現金を稼ぎ、旦那だけ先に田舎へ行き、農的生活の基盤づくりを始めている。現在は、田んぼと畑をバリバリとやり、食の自給と農村での仕事づくりに燃えている。
彼も人生を開墾中だ。
今回は「家」をテーマにそれぞれのお宅に訪問したが、みんな共通して「開墾」のストーリーがあるのに気がついた。お金さえ払えばなんでもしてもらえる都市生活から脱出して、
自然の中で自分の暮しを自力で創造するには、必然的にフロンティアスピリットが養われるのだろう。
最後に自然王国へ戻ってからのディスカッションは、とても活発な意見交換が交わされた。
今回の受講生はとても活発にコミュニケイションする雰囲気があり、真剣に議論しあうのに、終始笑いが絶えずまるで大人の修学旅行のように楽しい里山帰農塾だった。
二泊三日の里山での濃密な「時間と空間」に、受講生の皆さんにきっと「何か」心に響くものがあったにちがいない。
3・11後、放射能が漏れ続けているというとんでもない時代に突入した日本で、
これからどんな生き方をしていけば良いだろうか?と考える人が増えている現在、
僕らはここ鴨川で一つの方向性を示したい。
この里山という舞台でこんな楽しい暮しもありますと。
棚田の小さな農村でゆるがない小さな幸せがありますと。
受講生のみなさん、お疲れ様でした!
それでは素晴らしい人生という旅を!
また、お会い出来る事を楽しみにしています。
林良樹
カテゴリ
最新記事
カレンダー
2012年5月
« 4月    
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031