佐藤竹榮
アンチ・グローバル
「竹榮の鴨川エコCity構想」 

■text:佐藤竹榮

■date:2004.3.11

「房総は自然がいっぱいで、いいところですね」 

 
私の住む鴨川市を都市部から訪れた方々の口から出る第一声。皆さんもよく聞かれるフレーズでしょう。

 当地 安房南房総は温暖な気候に恵まれ周囲を海に囲まれた観光地であり、里山と田園がつくる風景は「いいところ」のフレーズがぴったりするようにも思われます。

 しかし遠目の風情とは裏腹に現状には幾多の問題が山積しています。この企画提案は現状の問題を提起し方向の転換を探るとともに、真に豊かな自然と生活を享受し地域経済を活性化することを願って、里山から川へ海へそして山へ循環する都市機能が機能的協調するコミュニケーション社会を山ヒコ・川ヒコ・海ヒコのストーリーとして提案します。

 安房地域の地形は九拾九谷といわれるように低い里山が連なり山間に平野・川が流れる地形であり、その風景は古来より里人と自然が共同で作ってきたものでした。しかし現在は間伐されない杉人工林はお化け山となり竹林が野放図に生い茂り、雑木林の減少による害獣被害は増加の一途をたどっています。中山間農業地での農業従事者は高齢化が進み里山崩壊は切羽詰った状況を向かえようとしているのです。

 中山間地を流れる河川はゆるやかで水量の少ないことにより汚濁が進みやすい状況を持っています。それに加え近年の沿岸部への人口の集中は河川の浄化能力にとどめを刺したといって過言ではないでしょう。

 安房地域の近海漁業は、豊富な種類の地魚と回遊魚によって豊かな水産資源の享受を受けてきました。しかし近年「育てる漁業」といわれて久しくなりますが近海漁場の育成には至っておらず、年々の漁獲高の減少は地場経済の衰退につながる影を落としています。

 これらの諸問題は個々別個の問題として解決することは難しく、また環境保護の観点からだけでは改善する方向への転換は困難と考えます。なぜなら山・川・海の現状は私たちのライフスタイルを集約して写し出された問題であり、現代の経済・産業を面的に集約して皺寄せされた問題であるからです。逆説的に言うならば中山間地域の農業活性化、河川の浄化、近海漁場の育成という提案を実現させようとするとき新しいライフスタイル、経済・産業の有様が見えてくるのではないでしょうか。

 先史より人間は山ヒコ・海ヒコと遊び、里山・川・海での遊びの中で人格の形成をおこなってきました。幼児期の人格形成に欠かせないこととして狩猟・採取・飼育・栽培が重要視されます。善悪の判断、助け合うこと、失敗すること、成功すること、自立すること、人間は長い歴史のなか自然に抱かれて成長してきました。それは現代に生きる私たちにとっても重要な経験です。

 現代は自分の位置を確認するのが困難な時代です。高度に分業化された社会は生きる力、精神的自立を不安定なものとしてきました。現代人の定年帰農・青年帰農の流れは生きる力を与えてくれる自然との共生を生命としての遺伝子・細胞が求めている現われであると考えます。


山ヒコと遊ぶ多目的里山「農」空間の創造と共生

 中山間地農業という言葉からは、非効率的、狭い農地、過疎化、じいちゃん・ばあちゃん農業と言うようなマイナスイメージが伝わってきます。これからの日本農業の有り方の中で安い輸入農産物、効率化機械化された大規模農園に対抗する農地として中山間地農業は立ち行かなくなるでしょう。しかし里山「農」空間と視点を変えてその価値を考えたとき、ここにすばらしい可能性を見出します。

 里山といわれる自然は人間社会との共存によって造られてきました。有機無農薬の田畑・雑木林には多くの生物が住み里人と共生し、里山「農」空間は人々の教育の場であり医療の場であり文化の場でありました。多目的里山「農」空間の創造とは中山間地を農業生産物の付加価値を求める農業から農業生産空間の付加価値を提供する農業価値観の転換です。言いかえるならば第一次産業と第三次産業の融合であり、生産と空間提供サービスとの融合と言えます。


受け皿としての里山農事組合法人・山ヒコボランティアの設立

 中間山間地の過疎化は深刻な問題です。地域独自に田畑山林の保全整備は困難な状況にあります。そこで地域ごとに農事組合法人を設立し同時に山ヒコボランティアを募集します。


多目的農空間創造の為のソフトとボランティアの提供

 県市町村サイドでは農事組合及び山ヒコボランティアに対して多目的農空間創造の為のソフトと利用の為のソフト、ボランティア人材の募集と斡旋をおこないます。


多目的農空間の創造と利用

 多目的農空間は自然の循環を体験し自然の循環の中での自分の位置 在り方を確認する「装置」といえます。その意味で多目的農空間は体験型のハンズオンミュージアムであるといえます。

 農事組合法人を受け皿としボランティアとともに行われる里山での間伐、炭焼き、森林浴、山菜取り、野鳥・昆虫・植物観察や 鶏・やぎ・牛の飼育田畑の耕作、そこで行われること全てが多目的農空間の役割であり創造と利用に連なるものです。ですから多目的農空間の創造と利用は開発ではなく今ある環境の価値を確認し、より良くする農的生活作業といえます。

 また整備保全の進んだ農空間は農事組合法人を受け皿として老健・障害者医療やホスピス医療、幼児青少年教育、社会人の精神的肉体的ケアの場として空間と時間を提供します。

 空間と時間の提供は体験農業としてハンズオンミュージアムの役割を持ち、定年帰農・青年帰農、半定住・定住希望者の受け皿としての役割をあわせもちます。

 また生産空間の付加価値の向上は生産される産品の付加価値となり参加する地域住民 ボランティアによる地場消費の拡大、安房ブランドの育成につながります。


川ヒコと遊ぶ 河川浄化と観光資源としての河川

 川は重要な観光資源であると同時に里山の栄養を海に運ぶ動脈でした。近年の開発と沿岸部への人口の集中は河川の機能を収奪してきたと言って過言ではないでしょう。私たちは21世紀 山から海へ都市住宅と河川が機能的に循環協調する河川の役割を復活させなければなりません。


受け皿としての各地域組織の連携するビオトープ運営組織と川ヒコボランティアの設立

 河川の浄化は生活者としての地域住民と密接な関係が有ります。そこで行政と地域住民の意見の受け皿として川漁組合、商工会、PTAなど各地域組織が連携するビオトープ運営組織を設立し同時に川ヒコボランティアを募集します。


河川浄化の為に

 行政による合併浄化槽・下水道の普及 河川への排水流入部での四万十川方式などの浄化システムの導入。三面張り河川の改修と緑化事業。
川ヒコボランティアにより地域社会に向けて生活排水の河川負荷軽減の為に洗剤の使い分けや軽減を家庭ボランティアとしての参加呼びかけ。 里山人工林竹林間伐により派生する炭材による中小河川の浄化。 


ビオトープとしての河川の創造と利用

 地域住民 川ヒコボランティアによる河川の浄化作業はその作業自体に都市生活者としての在りようを考え環境問題に参加する「装置」としての役割を持ちビオトープの創造という意味をあわせ持ちます。

 上流部より浄化の進んだ河川は、川遊び体験空間型ハンズオンミュージアムとして地域住民・観光者に対しビオトープ運営組織を受け皿とし提供されます。

 また河川浄化により山から海への栄養源としての役割を復活し近海・磯資源漁場の育成を進めます。

 浄化の進む河川は観光資源としての役割もにない海岸観光地域から里山観光体験農業への道しるべの役割をあわせもち安房地域の空間付加価値を高めます。


海ヒコと遊ぶ 海辺資源と滞在型リゾート地育成

 近海・磯漁場の育成は近年の地球温暖化にともなう海面の上昇、異常気象など地球規模の気候変化に対応すべくまた漁獲高の安定の為にも急務のときを向かえています。

 また漁業産品も農業産品と同じく輸入冷凍魚や輸入加工食品の増加に伴いその価値を保っていくことが困難な状況になりつつあります。
海辺空間は地域住民・観光者にとって安房南房総を肌に感じ、里山から川・海そして山への自然の循環を体感し地球規模での環境を考える「装置」であり、漁業者にとっては地魚ブランドを高める為の「装置」であるといえます。

受け皿として魚業組合・地域組織の連携する海浜ビオトープ運営組織と海ヒコボランティアの設立

 多目的磯近海漁場の利用には地域住民と漁業者の権利や生活が密接に関係し、またサーフィンやジェットスキーなどマリンスポーツ関係者、観光業者との協力が欠かせません。そこで漁業組合を中心として各地域組織の連携する海浜ビオトープ運営組織を設立し同時に海ヒコボランティアを募集します。


海遊び・漁業体験型ハンズオンミュージアムとしての多目的利用
 
 鴨川に住んでいても磯遊びやマリンスポーツの体験の少ない子供や住民の多いこと驚かされます。
 
 漁業者の育成、地魚ブランドの育成、滞在型リゾート地の育成の為には体験漁業やマリンスポーツの参加体験ソフトの充実が欠かせないものとなります。
 
 地引網や磯遊び、マリンスポーツ体験や海洋学習を海浜ビオトープ運営組織が受け皿となり海ヒコボランティアが広く地域住民や観光客に海岸清掃とレクレーションの形式で提供し南房総の自然の循環 自然の恵みを肌で感じる機会を通年提供することで通年観光者増加による地場消費の拡大や地魚ブランド育成を推進します。
 

山ヒコ・川ヒコ・海ヒコの面的・機能的協調
 〜南房総を関東の奥座敷とする位置付け〜

 
 里山から始まり川を流れ海に至る循環型地域社会の創造は自然環境の保護だけを役割とするものではなく、南房総全域の農漁業産品を生み出す生産空間と地場産品の付加価値を高め、生活空間としての付加価値を生み出します。
 これからの企業誘致、観光客誘致に求められるものは20世紀型の水や電力の供給ではなく生活企業者として企業に従事する人々、生活者の目を持つ観光者への高いクウォリティーをもつ生活空間、自然空間と時間の提供であり言いかえれば安心して住める住環境の提供であるといえます。

 ここ数年の異常気象、地球温暖化、ヒートアイランド現象、人工的過密によるストレスの増加・希薄な人間関係に起因する異常犯罪の増加、出生率の低下、産業・経済のグローバル化による構造の転換、エネルギーの革命的転換、高齢化社会などにより現在までの都市集中型経済構造は大きく方向を変えようとしています。それらにより南房総への人口の移動は充分に考えられ21世紀「命」の豊かさを実感できる空間と時間の提供こそが安房南房総地域を活性化させる方策で有ると信じます。
 その意味において南房総を関東の奥座敷と位置付ける働きかけ、里山〜川〜海へと続く自然の循環をストーリーの中心とする生活と産業・経済の機能的協調による循環型社会構造の創造は重要であり、山ヒコ・川ヒコ・海ヒコと遊ぶという面的質的な協調が持続性をもたらすものと考えます。面的・質的・機能的協調を潤滑にするもとして地域通貨の導入による地域信頼関係の構築も有効な手段であると考えます。
 社会の構造は人体の構造のように機能的協調性を持たなければなりません。山・川・海の循環を骨格とし行政は脳神経、産業は臓器であり個々の生活は体を作る細胞と言えるでしょう。

 20世紀のテーマは「技術」でした。21世紀のテーマ?それは「命」です。多くの技術革新によって支えられた大量生産大量消費の20世紀文明から、21世紀は地球上の命を支える文明を生み出さなくてはなりません。故 藤本敏夫氏の著書に「歴史は未来からやってくる」という一文がありました。南房総での山・川・海の自然循環を生かす地域づくりは21世紀の小さな小さな出発ですが未来に向かって大きな勇気と可能性を人々に発信するきっかけになると信じています。

 


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