田中正治
アンチ・グローバル

「バイオエネルギー、食料、遺伝子組み換え」 

■text:田中正治

■date:2007.4.10

石油価格高騰のために、軽油やガソリンの代替燃料として、穀物を原料とするエタノール、バイオディーゼルなどバイオ燃料の国際的需要が拡大している。その結果、トウモロコシや大豆など穀物の国際相場が高騰し、世界はバイオエネルギーで沸騰しているようだ。現代の”ゴールドラッシュ”とさえいわれはじめている。

(注)注目される代表的なバイオエネルギー燃料とは・・・・

1.バイオエタノール燃料ーこれは、サトウキビ茎、トウモロコシ、テンサイ等の糖分+水+酵母でアルコール発酵させ、精製・水分離したエタノールを、自動車などの燃料にしたもの。ガソリンの代わりになり、燃料電池の原料(水素)にもなる。

2.バイオメタノール燃料ーこれは草木類等を半燃焼させ、ガス化し、メタノール合成した燃料。エタノールの2倍の生産量があり、「万能の化学原料」ともいわれる。ガソリンの代わりになり、燃料電池の原料(水素)にもなる。

3.バイオディーゼル燃料ーこれは、植物(ナタネ・ヒマワリ・大豆・パーム)油にメタノールを加え、合成しエステル化したもので、軽油に代わりディーゼル車の燃料にもなる。

★ところで沸騰するバイオエネルギーは、どのような問題を発生させているのだろうか。

1)アメリカでは、自動車など 燃料用エタノール生産の拡大のために、トウモロコシ輸出が劇的に減少する一方、トウモロコシ系エタノール生産は、2001年と2005年の間に倍増。 トウモロコシ価格の高騰は、食品産業や畜産業(飼料)に打撃を与えている。
現在、約50%はGMトウモロコシだが、このブームで、GMトウモロコシの栽培比率及びエタノール化の過程でのGM微生物利用比率は高くなるだろう。

2)ブラジルでは、2000年代に入り石油価格が高騰。その結果、代替品としてサトウキビ系エタノールの増産に拍車がかかり、対石油エタノール世界戦略が構想されている。サトウキビ畑の拡大は大豆畑増大と共に、急速にアマゾン熱帯林を畑に変え、エネルギーと環境と食糧の対立をクローズアップさせている。更に、GMサトウキビ栽培とエタノール化の過程でのGM微生物利用が計画されており、間もなく実施されようとしている。

3)フランスでは、バイオエタノール混合ガソリンは0.38ユーロ/リットル(48円/リットル)。穀物・ジャガイモ・テンサイからのエタノール燃料及び、菜種などのバイオディーゼル燃料は税額控除である。休耕地が活用が奨励、活用されている。
エネルギーと食料と環境との対立は、特別起こっていないようだ。

4)ドイツでは、2009年には全てのバイオ燃料は100%税額控除され、休耕地での菜種栽培が奨励されている。バイオディーゼル燃料はあらゆるディーゼルエンジンで使用可能で、 潤滑性にすぐれ、エンジンの耐久性が向上し、 燃費は軽油とほぼ同じである。エネルギーと食料と環境との対立は、特別起 こっていないようだ。

5)中国では、肉食の増加による、畜産飼料穀物(トウモロコシなど)の不足に加えて、燃料用トウモロコシ・エタノールの増産の結果、穀物価格が高騰している。
黒龍江省、吉林省、河南省では、トウモロコシ系エタノールE10(10%混合)が義務化されていて、価格高騰が著しい。エネルギーと畜産飼料と食糧の対立が起こっている。

6)日本では、バイオエタノールは、まだ実証段階にすぎない。政府は2120年度、50万キロリットルのエタノール燃料を生産し、ガソリン消費の30−50%に混合燃料を使うことを目標としているが、欧米に比べ完全に遅れをとっている。
しかし、民間企業はGM技術を利用してエタノール生産の準備をしている。例えば、
・「新江州」は、セルロース分解GM酵母を使って、古紙系エタノール製造技術を開発。
・日揮は、GM酵母を使って、廃材、古紙、生ごみ、農産物廃棄物系エタノール製造。
・三井造船とNEDOは、GM酵素を利用したセルロースの糖化技術の開発など。

7)沸騰するバイオエネルギーがもたらす問題点を整理すると、・・・

・バイオ燃料農産物(トウモロコシ)の増産をもたらした結果、逆に食料と畜産飼料が不足。その結果、食料価格と畜産飼料価格が高騰。バイオエネルギーと食料・畜産飼料との対立が顕在化している。特に、アメリカで。

・バイオ燃料農産物(サトウキビ)の増産をもたらした結果、逆に砂糖価格が上昇。アマゾン熱帯林伐採の急速な拡大をもたらしている。バイオエネルギーと食料と地球環境との対立が顕在化している。特に、ブラジルで。

・トウモロコシ系エタノールは、特に、農薬、化学肥料、農業機械燃料の大量消費のために、生産されたバイオエタノール燃料より、むしろ、生産・製造過程で使用された化石燃料が上回る結果、カーボンフリー・温暖化対策になるのか、との指摘がされている。
バイオエネルギーと環境・温暖化抑制対策との対立が起こっている。特にアメリカで。
・ブラジルとアメリカでは、バイオエタノール生産のために、GMサトウキビ、GMトウモロコシ栽培拡大やGM発酵微生物の利用計画や実施が、特に進められている。それは、土壌のGM汚染、周辺へのGMトウモロコシ、GMサトウキビ汚染を拡大する可能性が大きい。GMバイオエネルギーと環境との対立が激化するだろう。

★では、オルタナティブは何か?
食料、畜産飼料、地球環境と対立せず、むしろ協調するバイオエネルギーはあるのか。

1)第一は、菜種油や廃油を利用したバイオディーゼル燃料。既にドイツ、フランス、イギリス、イタリアなどヨーロッパでは市場ベースで流通している。免税措置がとられれば、軽油の代替燃料として充分活用可能だ。エネルギーと食料と環境との対立は、特別起こっていないようだ。休耕地、減反田を活用すれば、農業の活性化の手段にもなる。

2)第二は、草木をメタノール化したバイオメタノール燃料(工業用アルコール)。
これは草木類等を半燃焼させ、ガス化し、メタノール合成した燃料。バイオマス・ニッポン総合戦略によれば、間伐材を含む林地残材は、年間発生量約390万トン。これをメタノール化すれば、バイオディーゼルの10倍、エタノールの4倍も収穫が可能とされる。
・試算では、ガソリン1リットル当たり62−93円(税抜き)。石油1.1リットルあたりの熱量当たりの市販燃料価格は、都市ガス104円、軽油100円(内税36円)、ガソリン125円(内税67円)、バイオエタノール100円である。(坂井正康教授のプロジェクト)「21世紀エネルギー」森北出版)参照。http://homepage2.nifty.com/rakuda/sub24.htm

3)第三に、森林廃棄物、農業廃棄物、畜産廃棄物、生物系都市廃棄物(生ごみ、紙くず)などのエタノール化。
例えば、 食品廃棄物中に多く含まれるご飯やパンなどの炭水化物を、選択的に糖化/エタノール発酵させ、食品残渣をエタノールに転換することは可能だ。http://homepage2.nifty.com/rakuda/sub24.htm
大都市は、建築廃材など、生物系都市廃棄物(生ごみ、紙くず)の宝庫でもある。
http://ameblo.jp/ligno/ ただし、GM発酵菌が使用される場合があるので要注意だ。
http://www.i-sis.org.uk/YTHEP.php
GM発酵菌に代わる有効微生物群による発酵促進は可能と思われる(例:大友菌)。

@バイオエネルギーは、工夫すれば、地産地消が可能であり、また、原産地の持続可能性を維持すれば、再生可能であることが特徴だ。世界が化石燃料、原子力エネルギーから脱出し、永続可能な水素エネルギー経済へ移行していくためには、食料生産のみならず、エネルギー生産としての農林業の多面性が注目される。

 


http://www.k-sizenohkoku.com
kingdom@viola.ocn.ne.jp
Copyright (C) 2000-2004 Kamogawa shizen ohkoku All rights reserved.