田中正治
アンチ・グローバル

「知的所有権と多国籍企業」 

■text:田中正治

■date:2004.3.11

A) 生物に関する知的所有権
1)1990年代、生物資源利用に関する国際協定と機構が締結、設立された。生物多様性条約とWTO(世界貿易機関)の設立である。それらを多国籍企桑-アグリビジネスがバックアップした。その籍果、米国モデルが世界の生命特許法の標準となろうとしている。

2)1992年、ブラジルでの地球サミツトにおいて生物多様性条約が採択されだ。これは一方では先住民の生物資源への権利が認められたと言われるが、根本的には生物資源に関する知的所有権が国際的にみとめられたことを意味する。NG0と多国籍企業団との戦いでは、多国籍企業の実質的勝利であっだとうわさされている。
石油化学文明の全盛期であった20世紀文明の衰退とそれに代わる生命産業の世紀の到来に向けて、どのようなシステムの文明を構想しるのか、その基盤形勢に向けた世界のNG0と多国籍企業団を両極とした戦いの舞台がブラジルサミットであった。

3)現在、生物関連の研究者による特許取得は急速に広範にすすんでおり、細胞やDNAレベルに及んでいる。アグリビジネスと研究者の目標は、植物、動物、微生物さらにDNA(人間も含む)特許に関する独占的支配システムを作ることである。

4)米国では1930年に植物に関する特許法が成立、1980年に遺伝子組み換え微生物が特許の対象となり、1985年には植物と種子が特許の対象へ、1987年には動物にも特許の対象範囲が及んだ。そのなかには人体の一部もその対象に含まれており、人の細胞やDNAも商品化可能となった。
小さなバイテク企業が林立しているが、巨大生命産業が買収合戦を演じている。巨大バイテク企業、例えばモンサント社は世界規模で同様の独占的生物特許権を確保するだめにWT0を頂点とする、貿易と投資と知的所宥権に関する協定を利用している。

5)特許権は元々主として、工業発展のための科学技術の進歩のために、発明に対する排他的権利を一定期間発明者に保障するものとして登場したが、今や、利潤独占のための企桑の排他的手段と化してしまっている。

6)1960年以降、工業国の農業に化学、機械、商業がもたらした急遼な変化は、慶業を農薬、化学肥料、種子、機械企業と巨大流通企桑がコントロールする工業的農業へと移行させてきた。種子のF1化のみならず遺伝子組み換えは、農業のモノカルチャー化、工業化を極限まで異同させようとしているかに見える。

7)商業的な櫨物晶種改良と種子販売は、バイオ産業の巨大企桑カ枝配しており、それらは種子、化学肥料、農薬などの市場占宥率を上げている。それは世界的きぼでなされている。世界の生物多穣性の80%は南の熱欝、亜熱腎地域であり、従って南を支配することは、種子と自然の富を支配するために、北のバイオ産業にとって不可欠になっている。

8)生物多穣笹と知的所有権をめぐる北と南の戦いは、世界的規膜になっていて、21世紀の明暗を分ける分岐点の一つになろうとしている。世界のNG0-農民と多国籍企業を両極とする世界大の戦いで勝利しなければ、生物多様笹の騎壊、強いては生態系の植物遵鎖の崩壊を結果するかもしれない。



B)ガツト・ウルグアイラウンドとWTO
1)1993/12実質的合意になったGATT-ウルグアイラウンド(UR多角的貿易交渉)は、従来のモノ(製品)分野に加え、農業、銀行-情報等サービス貿易、投資、知的所宥権、労働等15分野が対象とされた。更に法的拘束力を持つWTO設立を決定した。

2)UR合意に調印してWTOに加盟すると、その国はWTOのルー一ルに従う義務を負うことになり、多くの分野で国内法や政策を変更しなければならない。もしWTOのルールに従わなければ、その国は提訴されたり、貿易制裁処置(処罰、報復)をうける恐れがある。WTOはいくつかの国際協定の束であるから、加盟国はそれらの協定を一括受託しなければならない。
WTOの協定が執行されれば、各国はWTOのルールに反する貿易、投資、サーびス、農業、知的所有権等の経済政策を立案することは困難になる。

3)1986年、URが開始された時、第三世界藷国の多くはGATTの権限を投資、サービス、農業、知的所有権など新分野に拡大する先進工業国の意図に激しく抵抗した。工業国が得意の新分野で第三世界の新市場開拓をするために自由化を促進しようとしたからである。

4)先進工業国URにTRIP(貿易関遵知的所有権)をとうそうとした理由は、独占による高価格や特許権使用料、技術製品の販売によって工業国の企菜が利潤を確保出来るようにすること、更に南の途上国の潜在的ライバルの技術発展を阻止する壁をつくっておくためである。 
 URで最も利益を得たのは多国籍企業であった。自由貿易とは実際には多国籍企業が世界で貿易したり、投資しうる自由であり、資本の権カ拡大の自由を意味した。

5)TRIP(貿易関遵知的所有権)協定とは、微生物やDNA、組み換え物質など生物に特許権を設立する可能性を客易にし、バイオ産業への投資、研究開発のバヅクグラウンドを整備しだのである。

6)今日、先進工業国、特に米国とEUが国際舞台で推進している重点政策にMAI(多国間役資協定)があるWTOでEUが提起しているMAIに関する協定には次のような義務が定義されている。
a)外国投資の自由化(国内企業と同等の参入、会社設立の権利を与えられる)
b)外国投資家に対する「内国民待遇」(外国企業は現地企業と同等の不動産への所有権、政府補助、助成金、契約等を受ける権和が与えられる)
C)外国投資家にとって有利なために「追随措置」をこうじる。(全利益を本国に送還する権利、現地企業に宥利な現行法の改正)

7)MAI協定が成立するなら、WTOは単なる貿易機関ではなく・世界規模での投資を規制する強力な機能を持つ機関になり、投資政策や報酬が拡大適用されることを意味する。
 経済の主権や所有形態、現地企業や農家の生存、雇用や社会文化的生活に直接大きな影響を及ぼすことになる。新植民地政策の現在版ともいえよう。

8)農業分野では、MAIは外国資本の農地直接所有に道を開くことになる。
 日本の農業基本法改定の核である株式会社による農地所有や種苗法改定の核である知的所有権などは、MAIによる外国企業による直接土地所有権をみこした国内法整備と見るのはうがちすぎだろうか?

9)多国籍企業が地球環境破壊の最大の要因であることは疑いえない。それは次のような点から言えよう。
a)産業分野の温室効果ガスの半分以上の排出。
b)オゾン層を破壊するフロンガス等の独占的生産と支配。
C)鉱物分野での主要部門の支配。
d)世界の輸出穀物生産用農地の80%支配。
e)20企業が全世界の農薬売上の90%支配。
f)世界の塩素の大部分を製造。塩素はPCB、DDTダイオキシンなど有害物質の原材料
g)天然資源や一次産品の貿易を支配。資源の採取や開発を独占している。
h)森林、水、海洋資源の枯渇や劣化、有害廃棄物や危険物の拡散。

10)南の債務国では多国籍企業団への利子返済の必要牲という最優先課題が天然資源や木材、魚、パナナ、ココァ、鉱物など一次産品の輸出広大促進しており、最大債務国15か国では、1970年代の終わりから森棚開発の遠度が3倍にあがった。更にIMF世界銀行が債務国へ条件とするSAP(構造調整プログラム、規制緩和、民営化、自由化の政策)が結果する貧困の増大は土地を持たない農民を森林や土地、漁業、資源の乱開発をせざるを得ない状況に追い込んでいる。

11)多国籍企業の社員達は新しいバイテク薬品食品やバイテク作物に利用可龍な細胞を採取するために熱帯をうろついている。あらゆる生物に知的所有権を刻印しようとしているのである。熱帯地域から生物多様性を略奪し、それらをバイテク種子・作物・食品・薬品など商品化して巨大市場にしているのである。本来その土地の人々のものであったものを、加工し商品化してそれらを再びその土地の人々にうりつけているのである。これが生命資源の海賊行為とよばれているものである。

12)1996年多国籍企業モンサント社は遺伝子組替え大豆「ラウンドアップレディ」を売り出した。これはモンサント社の除草剤「ウランドアップ」に耐性をもたせた大豆である。特許を持つこの大豆の種子を栽培希望する農民は「遺伝子ライセンス契約書」にサインしなければならない。契約書ではその種子を保存・転売してはならず・除草剤とのセットでしか販売されない。モンサント社は三年間農場を監観し、契約の遵守を確認する権利をもっている。バイオ農奴制と皮肉られているシステムである。
 この30年間、気が付かない間にほとんどの種子がFIになってしまったように、知らないうちに、殆どの種子が遺伝子組替えされていたという悪夢が正夢にかりかねない。多国籍企業に対抗する種子戦争が世界で繰り広げられている。種苗法改定に対抗し、種子銀行をつくることはその方策の一つとなっている。

13)農業における在来品種は、数千年の自然選択と人為選択の結果改良されてきた。それに対して商品化された種子-FI種や遺伝子組替え種など-は生態学的に不完全である。
 第一に、種子は本来自ら再生産するものであるにかかわらず、みずからを再生産しない。
毎年FI種を種子会社から購入しなければならない。
 第二にF1種遺伝子組み替え種は自らの力で生産できない。大量の水、肥料、農薬など人為的な外部エネルギーに依存せずには成育不全種子なのである。
 バイオテクノロジーは生産手段としての種子を農民から剥奪しようとする。種子生産の場が農場から企業の実験室に移動することで価値と権力は農民からバイテク企業に移動する。
自家生産の種子の排除は、バイテク産業への農民の依存を劇的にたかめる。

14)インドの物理学者、哲学者で「科学、技術生態学研究財団」を主催する女性エコロジストでおるヴァンダナ・シーバは多国籍企業と生命の知的所有権にたいする二つの運動をバックアップしている。
一つには、地域で種子銀行を設立して原種の多様怪をまもるインド国内のネットワーク「ナーウダニャ(九つの種子という意味)」をとうして、生命と多様性にかんするオルタナテォヴを模索している。
 二つには、農展の運動に始まった「サッティヤグラハ(真理把握の意味)」や第三世界ネットワークで始めた公共知的所有権の運動などの公共の知的財産をまもる運動で、知識や生命そのものを私有財産にする考えに対するオルタナティヴの構想をめざしている。



C)種子銀行と公共知的所有権
1)資本主義にとって、唯一価値あるものは交換価値、市場価値であり、それらは商品として社会の中で人と人とを結びつけている。入間の労働を擦介として加工されたものであるか、人聞の労働を媒介に「収奪された自然」が唯一、商品として社会に流通する時、価値評価されるのである。われわれ人間は生産と売買関係をとうしてそうした価値形成に参加しているわけである。
 資本階級にとって、交換価値が唯一の価値であり従って「外的自然」や具体的な有用的な労働によって生産された使用価値は価値の対象ではない。「外的自然」は価値の対象ではないのでその再生産費用は計上されない。

2)交換価値の自由な発展が、市場原理として世界を支配した結果起こっている地球環境の破壌と生命の危機は、人々に市場価値への批判と市場価値からの脱出-オルタナティヴと多様な価値観を産み出させている。

3)自然、具体的な有用な労働、使用価値の復権が人々のコミュニケーシヨンネットワークの中でいのちを吹き返す流れが模索されている。原種の多様性をまもる地域での種子銀行の設立や知識や生命そのものを私有財産化する考えに対するオルタナティヴ=公共知的所宥権のための運動はそれらのひとつであろう。
(多くのアイディアは「生命め所有権」2001プックレットによった)
 


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