田中正治
田中論文


「戦争とバイオエネルギー」


■text:田中正治

■date:2004.3.11

1)アメリカ政府と軍部がイラクを攻撃、硝煙と血の臭いが毎日テレビの画面から噴出、世界はこの傲慢な"ならず者国家"USバビロン帝国に対して、全世界で1000万人反戦レジスタンス運動が起こったと報じられている。色々な理屈をつけているが、要するに、世界第二の石油埋蔵地イラクを支配したい、武器を大量に消費し儲けたい、というのがアメリカの本音なんでしょうね、きっと。

いつの世も、真の主役は表に出ないということらしい。石油メジャーと武器商人がその主役。ブッシュ政権は、石油産業、原子力産業、軍需産業の執行代理人のようなものとうわさされるも、側近の顔ぶれを見れば納得させられる。まあ、世界が石油に頼っている限り、戦争はなくならないのだろう。地球環境を破壊の局に追い込みながらも、依然として石油は、産業の動脈に変わりはないと嘯いている人達もいる。では、石油に代わるエネルギーを作ってしまえばいいんじゃないの?ということになる。まさに、そうなのだ。

じゃあ何をエネルギーの原料にするか?無尽蔵の太陽エネルギーがそれ。石油も太陽エネルギーの塊といえばそうなのだが、堀尽くせばそれでおしまい。やっぱり植物。生命体の中で唯一の生産者といわれている働き者。我々動物も、この自然界唯一の生産者のお世話にならなければ生きていけないのは自明のこと。

山形県の新庄では、早稲田大学のバイオマスセンターがOPENしました。スイート・ソルガムというサトウキビの一種を、農地に植え、それを絞り、アルコール発酵させ、自動車やトラクターのエネルギーにしてしまうとか。有機農業といえども、農業機械は石油に頼っているのだから、いずれ石油が使えなくなると有機農業もだめ、といわれてきた難題を軽くクリアしようとしている。

年末に40歳くらいのエネルギー研究者に会ったが、彼は菜種を植え、種を絞って菜種油にし、それを原料に発電をする事業を立ち上げたいと言っていた。農業は危機だ!といわれて久しいが、米や野菜だけに頼らず、エネルギーも生産し、流通に乗せていく、これは将来的に意義のある事業だと思われる。

原子力産業、石油産業にエネルギーを頼らず、自分たちでエネルギーを作って生きていく。それも太陽と大気と水と大地の恵みだけではぐくまれる植物を原料にして。バイオエネルギーは無尽蔵。農業はエネルギーの無尽蔵の宝庫といえる。休耕田や減反田でスイート・ソルガム(サトウキビ類)を植え"緑の油田"を作る。植物から無尽蔵のエネルギーを!これが間もなく、21世紀のトレンディーになるはずだ。

2)イギリスで始まった産業革命は、農業から工業への産業構造の革命でもあった。この工業こそ、自然に制約される農業(米はせいぜい年2回しかとれない)の枠をぶっ飛ばし、人工的にどんどん回転を上げ、効率をアップ、同じものをいくつでも作ってしまうという魔法をもたらした。この潤滑油がお金。お金が生産、流通、消費をぐるぐると回りはじめると、それにあった経済システムが出来てしまい、お金は人々の社会的関係を作っていく資本になっていく、というマジックが演じられ、どんどん大きくなれば儲けも結局大きくなり、人間の欲望をも拡大再生産していく。

石油は実に安価で、便利で効率のよいエネルギー。だからみんなじゃぶじゃぶと使ってしまう。情報化社会といっても、大量生産、大量消費、大量廃棄の工業経済は、この石油をベースに今なお続いている。だからアメリカは、石油の世界第二の埋蔵量を誇るイラクを
攻撃、占領して、独仏、ロシア系の利権を蹴っ飛ばして、石油を支配して、しっかり儲けるための、戦後処理をしているのだ。

3)じゃ〜、この石油をエネルギーにした工業から、石油をエネルギーにしない工業にしたらいいんじゃないの?という意見が出てきても不思議ではない。「工業のエコ化」とか「工業の農業化」とか言われているのがそれ。

40年前に、有機農業が機械化、化学農薬、化学肥料を手段として「工業化農業」へと転換したのとは逆に、「工業を農業化」してしまおうというわけだ。地域分散、分権型の循環社会に転換しようとするなら、この「工業の農業化・エコ化」が不可欠になるだろう。

「工業の農業化」とは、@エネルギー、工業製品(プラスティック)、医薬品を農林漁業資源(バイオマス)から生産。
□ 生物、微生物に直接有用物を作らせる「生産の農業化」。
□ 鉄とコンクリートによるダム・排水路を、「緑のダム」や土壌、微生物による保水・浄化にかえる「公共事業の農業化」などを意味する。

もみ、稲わら、間伐材、廃材、水産加工残渣、家畜糞尿、食品廃棄物廃油など、年間1億5000万トン。それに遊休地での菜種栽培などを含めると莫大なバイオマス資源がある。これらを微生物の働きによりエタノール、メタノール、水素、バイオジーゼル燃料などのエネルギーと生分解性プラスティック、医薬品、食料品などに転化できる。バイオマスは、アルコールにしてもデンプンにしても、ガソリンの代わりに自動車やトラクターを走らせたり、発電の燃料になるばかりか、石油の代わりに、プラスティックなど化学製品の原料になる。

20世紀は、世界のある地域に偏在する石油の争奪をめぐって多くの戦争が勃発した。それに対して、植物・バイオエネルギーを基盤にする経済に転換するなら、植物は世界に分散しているため、少なくとも、エネルギー争奪の点からみると、石油をめぐる戦争の根拠は、なくなるだろう。
 


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