KAIIN REPORT
4月1日  遺伝子組み換えイネ裁判と生命特許 勉強会 報告書
 
2006.2.16  更新日 2006.2.23 text:里山帰農塾 東京部会 保母善将

都内のサクラが満開になり、ようやく春らしい天候に恵まれた4月1日。午後6時半から、青山ウイメンズプラザの視聴覚室で、BeGood Cafe主催のシンポジウムが開催された。テーマは「遺伝子組み換えイネ裁判と生命特許」。

ゲストには、歌手の加藤登紀子さん、ジャーナリストの天笠啓祐さん、オーストラリアからの司祭マッカーティン ポールさん、そして、弁護士の神山美智子さん。

初めに、ビーグッドカフェのシキタ純さんが、司会を兼ねて、ビーグッドカフェの活動について報告された。きびきびとした司会振り。ゲスト紹介の後、早速加藤登紀子さんから、ご挨拶。すでに配布されている資料の中に、3月26日の産経新聞に掲載された寄稿があり、その内容に沿った形で、この問題の概略を説明して下さった。ポイントになる言葉は、「ディフェンシン」。このたんぱく質はすべての動植物に本来は備わっている。しかしそれは普段、すがたを顕さないで潜んでいる。外から菌が来たときだけに反応し、闘って身体を守る働きをする。潜んでいることに価値があり、常に露出していると、耐性菌の抗体が出来て機能を果せなくなる恐れがある。

この仕組みを分かりやすく最初にお話し下さったことが、この後の専門家の報告の理解を助けた。また、同時に、遺伝子の情報をほんの一握りの企業が独占してしまっていることの危惧を訴えかけ、その最大手と見なされるモンサント社のやってきたこと、やろうとしていることが、“経済至上主義”の延長上にあり実に見えないところで何かが進行している危機感がある、と指摘された。

コンサートツアー、とレコーディングの完成に追われつつ、この夜もNHKラジオで歌「檸檬」を披露されるという多忙の中で、あれもこれも、心配なこと、やらなくてはならないことにひっぱられているお登紀さんの「まだら分裂症」という自嘲も含んだ正直な心情の吐露は、その活動の多岐に渡ることを垣間見るにつけ、つくづくご苦労さまです、とお伝えするよりほかない。時間で区切るのがビーグッドカフェの運営の得意なところなのか、10分間という限られた時間での、示唆に富むご挨拶は終えられた。

次は、天笠氏。ワープロで几帳面に打ち出された資料に沿って、説明はよどみなく続いた。遺伝子組み換えの作物が植えられた面積は、すでに日本の国土全体の2.4倍にもなっている。半分以上をアメリカが占めていて、南米のアルゼンチン、パラグアイ、ブラジルが増えてきている。アジアでは中国が先進国。アフリカは南アフリカのみ。欧州は従来批判的だったのだが、ルーマニア、ポルトガル、チェコ、ドイツなど6カ国で始められている。ドイツは政権交代が起きてから、180度変わった。

大豆の栽培では中国が4,5千年の歴史。日本は2千年。アメリカで80年、アルゼンチン、ブラジルはせいぜい10年。歴史の浅い国での栽培は、ほとんどが飼料用としてのもの。大豆の輸入最大国は中国。大豆を売ればもうかる現実がそこにはある。

大豆のほかに、とうもろこし、菜種、綿などに遺伝子組み換え作物はすでに作られているが、次のターゲットが米と麦。最初の遺伝子組み換え米の大規模栽培が行われたのはイラン。

遺伝子を、本来もっていない性質のものを他から与えるということで、新しい性質を付与することができる。クラゲの光る遺伝子を移植されたサル。暗闇でボーっと光るのだそうだ。ヒラメの血液には寒さでも血流が凍らない性質があり、それを植物に移植することもできる。マングローブは塩水に強い根をもっている。耐塩性作物を作ることができる。これほど研究者にとって面白いものはない。

最初は耐病性作物の研究から始まっていった。世界的に除草剤耐性のものが広まったのは、モンサント社のラウンドアップという除草剤。植物をすべて根こそぎ枯らすが、この耐性があると、それだけが生き残るということになる。まず、ラウンドアップを撒いて更地にしてしまう。そこへ種まきをして、雑草とともに生えてきたところでラウンドアップを撒くと、耐性のある植物だけが生き残り、雑草は枯れる。栽培の効率化が図られる。
殺虫性作物。殺虫毒素を作る遺伝子を作物に。その作物を食べた虫は死ぬ。殺虫剤をまかなくていいことで省力化、コストダウンになる。

大豆を例にとって、遺伝子組み換え作物が出回っている割合を計算。大豆はアメリカに圧倒的に依存している。
その86%が遺伝子組み換えで作られている。日本が輸入するのは、その75.5%。一方で日本の自給率は4.7%なので、数式としては、86x75.5x95.3=61.9%消費者は知らない人がほとんど。食品表示として表示義務がないものが多い(例、菜種油など)

日本は栽培国にはなっていない。商業栽培という意味では皆無だ。しかし実験栽培は小規模でたくさん行われて
いる。屋外で実験されることに危惧。輸入される遺伝子入れ替え作物の形態はほとんどが種子の形で入ってくる。
こぼれおちて自生してしまう例が多く報告されている。

検査は一次、二次で行われる。RRがモンサント社、LLがバイエル社。食品汚染でみると、豆腐の44品で検査して18で発見された。100%国産大豆使用と書いてあるものの中で、10品中3で発見された。有機栽培の大豆、といっているものは7品中4で発見されていた。

遺伝子組み換え食品を食べた場合の治験は、ラットの場合で、帝京大学が除草剤耐性作物を食べさせたラットは噛み付きやすい子供になり、メス同士でもかみ合い、殺しあうほど。興奮させる働き。ロシアの研究者は交尾する前からずっと与え続けて次世代に与える影響をみた。死亡率が普通の作物で育てた場合で9%、遺伝子組み換えのえさを与えていた場合は、55.6%になったという。生き残ったラットも36%が低体重になった。

次に、オーストラリアからの マッカーティン師。生命特許という問題を訴えた。1985年に細菌の遺伝子、1985年に植物の遺伝子の情報に特許が与えられた。1987年には、動物、人胚、胎児についての遺伝子情報に特許が認められた。

遺伝子特許は、生命に特許を与えるということになり、それは経済的価値があるということになり、生命に経済的な価値を与えていいのかという問題になっている。生命は神が与えるもの。科学者が作るものではない。

特許によって、科学者が、企業が生命を所有することになる。この問題がどのようにひろがりをみせ、具体的に生活に影響が現れることになるかをわかりやすく、イラスト画でまとめたパネルを会場に掲示しておられた。
いずれ、本としてまとめることを計画中とのこと。休憩時間にパネルに見入る来場者もいた。

遺伝子組み換え植物の花粉は、風、虫によって遠くまでは運ばれる。汚染され、変わってしまうことがある。全世界に広まってしまったら、普通の植物がなくなる。食べられるのは組み替え遺伝子のものしかなくなる。企業も、政府も食べて大丈夫だと言っているが信じていいのだろうか。

種の特許をもっている会社がすべての植物の支配ができるようになる。日米関係が悪くなったら、種を売らないということもできる。ある企業の種で収穫しても、その種を残しておくことができなくなる。毎年種は企業から買わなくてはならなくなる。一度しか発芽しない種を作ろうとする動き。ターミネーター技術というものを開発したとき、企業の狙いがわかった。先進国から貧しい国へ出向き、人間の遺伝子をもってきて、お金になるものがあれば特許をとるというバイオ海賊が出現。日本の資生堂はインドネシアのハーブに特許を取得した。特許が取れるまでは情報を秘密にする。医師が治療に必要な情報をもとめても、開示しないことが起こる。医師はその情報を必要とした。さまざまに起こりうる矛盾、問題点を指摘された。

最後は神山弁護士の登壇。小柄な、実直そのものの神山弁護士は、イネの問題に関わるようになって、これまで勉強したこともない分野を知ることになり、そのことが楽しい、と打ち明けられていた。しかし良く聞いてみると、裁判官は、もっと何も分からない門外漢であり、その理解を助ける論議を尽くさなくてはならないのは、さらにご苦労があるに違いないと、思われる。4月の人事異動があり、これまで裁判に関わっていた3名の裁判官のうち2名が交代する。また、初めから説明をするようなことになるのかもしれない。気が遠くなるような感じだ。

組み替え遺伝子のイネを植えて実験をする人たちのほうにはるかに利があり、理論のどこに弱点があるかもそれをどうつくろうかも知り得ているプロを相手に、訴訟を起こすことの不利を考えずにいられない。また、田植えの時期が刻々と迫る中で、差し止め訴訟を起こすにしても、審議の時間が掛かりすぎ、結局時間切れで訴訟の意義すら失われてしまうことになる。そのいらだたしさはいかばかりだろう。しかも勝訴しても原告として得られるものはわずかなお金で、弁護士さんたちは交通費だけで、手弁当で携わっておられるのだという。

それに引き換え、この問題の孕む人類の将来に対しての危惧、危険を今のうちに回避しておかなくてはならないという遠大な“仮説”は、あまりにも重く、また、周囲の想像力を超えて理解を得ることが難しく、“仮説”の立証を求められることが、どんなに理不尽なことであるかを今回しみじみと聞かされる機会になった。象の背中にアリが登るようなものだ、というたとえは、言いえて妙だと思った。

皮肉なことではあるが、今、この段階で誰かが声を挙げていることは必要なことだと思った。その声を挙げておられる人の中に、加藤登紀子さんもおられる。身の回りの見える範囲で、こつこつと自然にかなった食物を作り、地に足のついた生活を築いていくことの価値をしみじみ考えさせられた。鴨川自然王国の価値はまさにここにあるのではないか、と思わされた。

質疑応答のコーナーでは来場者から、遺伝子組み換えのイネが混入してしまった場合の検出方法はあるかという質問があった。しかし、天笠さんの回答は、全体の中の、ほんの1葉を検査することにしかならず、抜き取り検査としてははなはだ不十分であるという現実が理解されるだけに留まった。また、神山弁護士の説明では、訴訟は第三次を企画中とのことで、名前を連ねる意思のある人は、委任状さえ提出することで参加できるという。資金面での援助の必要と共に訴えられていた。

公演終了後、加藤登紀子さんを囲んでおられた参加者の記念写真をぱちり。王国から参加された、石井さん、宮田さん、ミツオさんらと、夕食に出かけた。トージバの神澤さんとも、偶然初めてお会いすることができた。2007年問題を前に、今の内に準備としてイベントを企画されていると農文協の甲斐さんより伺っている。是非お話しを伺って、何かで関わって行きたいと思う。

食事の後外へ出ると、鈴木ちょうさんが、シンポジウムのゲスト、マッカーティンさんらを連れて歩いて行かれるところに遭遇した。そのまま、青山の居酒屋まで御一緒させていただき、ベジタリアンのマッカーティンさん兄弟に、おでんなど勧めつつ、交流のときを持たせていただいた。結局、終電の時刻まで。NHKラジオ深夜便でご出演されていたはずの加藤登紀子さんのライブを聞くことはできなかった。  (終わり) 

鴨川自然王国 2005年度第二回帰農塾生 保母善将(ほぼよしたか)







































































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