KAIIN REPORT
2月16日 里山帰農塾 フォーラム 報告書
 
2006.2.16  更新日 2006.2.23 text:里山帰農塾 東京部会 保母善将

2月16日、仕事を終えてから駆けつけた大手町は雨になっていた。JAビルの12階701会議室ではすでにシンポジウムは始まっていた。入ってすぐに、パネラー席の一番手前に坐っておられた加藤登紀子さんが会釈して下さり、大いに恐縮する。ふるさと回帰支援センター事務局長の高橋さんに、前の方の席を薦められ、今回の司会を務められている田中さん、宮田さんの席に近いところ、前から二列目に着席。

すでに高野さん、甲斐さんのお話は終わってしまっているらしく、石田さんがマイクをもっておられた。
興味深く聞かせていただいたのは、鴨川、大山千枚田を運営されているにもかかわらず、今ではコンバインが優秀になり、どんな狭い田でも、角になってしまう部分でも田植え、稲刈りがコンバインを降りずにできるようになっているため、農家の人は長靴を履いて田に入ることがないのだ、という報告だった。若い世代の農家の後継ぎにはなおさら、いまさら、あえて田に入って作業をするというのは考えられないことらしい。

むしろ、大山千枚田のオーナーさんたちが都会から来て、田に入って作業をしている姿を見て、田舎の地元の人がめずらしいことをやっているな、と見守るのだという。面白くまた、皮肉な構図だと思った。

大山千枚田のひとつの田の大きさは、プロの農家にとってはこんなに非効率なものはないのだという。しかし都会から週末に家族連れで来て、午前中いっぱい作業してその日のうちに帰るのにはこれが丁度いい大きさなのだという。全く価値が逆転してしまう発想の面白さ。石田さんの話には目からうろこが落ちた思いがした。

甲斐さんが言及して、とある地方のお百姓さんが小さい田をまとめて整理して大きく作り直した結果、やがて農業を辞めてしまったというエピソードを披露した。一日の作業の程度を確認しつつやってくるのに丁度よかった大きさの田だったのに、大きくした途端、作業をすれどもすれども先が見えない感覚にとらわれ、いやになってしまったのだという。

人間は身の丈に合った範囲で生活を組み立てるべきなのかもしれない、と思わされた。

加藤登紀子さんの話は、藤本敏夫さんが鴨川に移り住む、と宣言したときのことから始まった。当初は共に移り住むことに同意していたのが、直前前夜に急に想いが逆に振れて、行かないことを決意したのだという。3人の娘を抱えて、東京での仕事を続けなくてはいけない現実を考えた挙句の決意だったという。

それ以降、藤本氏の中には、田舎暮らしと都会暮らしの二元論的見方が出てきたのではないか、と。あくまでもファーストホームは鴨川で、東京はセカンドだ、という主張はされたようだったが、結果的に良い選択だったようだ。夫婦のあり方として、二本足が必ずしも同じ方向を向いている必要はない。別々を向いているから立っていられるのだ、という加藤さんらしい着眼での発言があった。

社会体制の革命は今、望むべくもないことかもしれないけれど、個々人のレベルでの変えていかなくては、という革命は起きている、と。加藤登紀子さんの曲「ラ・レボリューション」が私の頭の中で、すこし鳴った気がした。

司会の田中さんの、藤本氏のエピソードとして、最初鴨川に移り住んだばかりのときは定着されていたが、やがて都会のネオンとの間を往復する生活になっていた、という話も披露された。

客席からの質疑の時間になった。高千穂以外の場での地域おこしのうまくいっている実例を聞かせてほしいという発言が、徳島関連の方から。甲斐氏が地元学という観点から、説明されていた。

地方にある、あたりまえのものが、すごいものなのだとする説明。手つかずの自然があるのなら、それはむしろ宝であるという、ないものねだりよりもあるもの探し、の視点については、他のパネリストの皆さんも述べられていた。

質疑が少し途切れそうな雰囲気になったところで、甲斐さんが急に「鴨川帰農塾生の同窓会があって、その会の主催をしている保母さん、」と話を向けられた。思わぬ展開。何の準備もしていない中で、マイクを持たされ、日頃思っていること、鴨川で経験したことなどを思いつくまましゃべってみた。

高野さんがインサイダーの編集長としていかついイメージがあるのに鴨川では、お酒が入ると本当に気さくにいろいろなエピソードを聞かせて下さる方だ、ということ。又秋の稲刈りに参加したときに加藤登紀子さんが作って下さったモロヘイヤスープが、たくさんでとてもおいしかったことをお話した。登紀子さんも、スープを作ったときの葉を刻む作業を大勢のスタッフたちと共にされたことをお話して下さった。東京部会では、昨年末に藤本ミツヲ君の実家が経営されている大田区の小料理屋で忘年会を開いたこともお話した。

司会の田中さんから、帰農塾の良くないことも話して、と言われて発言したのは、自然が豊かなのは良いが、とにかく情報から隔絶されているところにいて、思ったのはむしろ自分が情報発信基地にならなくてはいけない、ということを実感したのだ、と。普段都会にいて、赤提灯をめぐっている中で、何か鴨川のこと、鴨川への想いを話し合い発信できる場をもてないかという思いから、東京部会を勝手に作らせてもらったこと。是非、鴨川に興味のある方、これから参加されたいと思う方も参加してみてほしいということまで述べてしまった。

高野さん、甲斐さん、石田さん、加藤さんの前で、こんなふうに発言させてもらうことは本当に良かったのか、と思いつつ、発言後に拍手をいただく展開になり、内心ほっとした。

自然王国のスタッフ、鈴木ちょうさんが紹介され、マクドナルドの店長を16年もされていて、その成功があるのにあえて、ファーストフードから今はスローライフへ転換され、鴨川だけでなく飯山と神楽坂をつなぐ活動を積極的にかかわっていらっしゃる姿を、加藤登紀子さんからも紹介されていた。重要な王国メンバーのおひとり、である。

ひきつづいての発言は東北の農村の姿と、鴨川のイメージとのギャップを指摘するものだった。加藤登紀子さんの「田植えの楽しさ」に言及した皮肉ともとれる指摘には、地方で実際に高齢化と過疎が進む中で、人が帰ってこない現実に直面している方の切実な想いが込められていたと思う。

甲斐さん、田中さんらの東北で活動が活発な地方の報告があり、加藤さんの、希望を、可能性をあきらめないで、人は変わるもの、流れはかわるもの、とする発言でシンポジウムはしめくくられた。

会場を700号室に移して、交流会。高橋事務局長、高野さん、加藤さんの音頭で乾杯。「棚田舞」の生酒があり、加藤登紀子さんが恐れ多くもついで下さった。美酒に酔いつつ先日の六本木のイベントでお会いして以来の遠坂さんと談笑。すると、そこへ一人の女性が来られ、近い将来農業を本格的にされることになるらしく、今からできるだけ早い時期に有機農法について住み込みで教えてもらえるところを紹介して欲しい、といわれる。

遠坂さんにも、すぐ心当たりを伺ったがなかなかよい回答を差し上げられない。甲斐さんに来ていただき事情を打ち明けたところ、練馬の白石さんの農園を、とおっしゃり、鈴木ちょうさんに伺ったところ、加須にある有名な農業従事者の名前を挙げられ、彼女は熱心にメモをとっておられた。

又、某新聞社の方が名詞を持ってこられ、今度東京部会の飲み会をするときには、声を掛けてくれ、と。発言の反響に驚いていた。

白石あづささんにも再会し、私のマドンナです、と周囲の方にのろけていた。まんざら嘘ではない。白石さんの文章力、また、上手に人の心に入ってくるいやみのないキャラクターには、心底感服している。きれいなお嬢さんだと思っている。

共同通信の石井勇人さんが、最近まとめられた大型特集の新聞記事を大々的に壁に貼られて、紹介をされていた。加藤登紀子さんへのインタビューもあり、かなり読み応えがありそう。

先日のかずさアカデミアホールでのふー太郎の森基金、yaeライブで司会をされていた元フジテレビアナウンサーの山川氏も来ておられたので、甲斐さんとお二人で記念写真をぱちり。やがて、あちらこちらから、加藤登紀子さんを囲んでの記念写真の依頼の声が掛かり、ふるさと回帰センターの徳田さん、高橋事務局長らのお写真も撮らせていた

だいた。帰農塾仲間の先輩、大塚さんも来られていたので、お登紀さんとぱちり。大変気さくにみなさんとの写真に応じて下さり、感激した。

高野さんは少し早くお帰りになられたが、やはり白石あづささんに紹介いただいた写真、映像関係の方との記念写真に加わっていただくことができた。私の六本木でのイベントの時の報告書をお渡しできて、握手もしていただき、頑張ってくださいと言われ、帰農塾生として大いに感動した。

タクシーに乗られる、お登紀さんと白石あづささんをお見送りし、自然王国スタッフの打ち上げに参加させていただいた。石田さんは、リーフアースの葉子さんと旧知の仲らしく、たいへん懐かしそうに話しておられた。宮田君、石井さんらは、アクシー号の時間が気になられるらしく、そわそわしてあまりゆっくりしていられない様子だった。

最後まで残っていたのは私と甲斐さん。農文協の本を買いに来るときにはまた、必ずお邪魔することにさせていただき、お別れした。お土産にTシャツを下さった葉子さんの心配りを大変嬉しく思った。いい記念になる。甲斐さんはまだ仕事がある、と赤坂へタクシーで向かった。深夜の大手町はすでに雨は止んでいた。(終わり)

鴨川自然王国 2005年度第二回帰農塾生 保母善将(ほぼよしたか)

































































































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