EVENT REPORT

9月19日-21日 里山帰農塾 〜秋〜 イベントREPORT
 
2008.9.19-21  更新日 2008.7.30 text:鈴木 健太

[はじめに]
初めまして、こんにちは。私、早稲田大学4年の鈴木健太と申します。
早稲田大学で非常勤講師をされているジャーナリストの高野孟先生のご縁あって、現在この鴨川自然王国で農作業やイベントのお手伝いをしています。

今回の帰農塾レポート執筆も、いつもの宮田に変わり、私が務めさせていただくことになりました。このレポートを通じて、参加できなかった方々にも帰農塾の臨場感あふれる雰囲気が伝われば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

今年の里山帰農塾9月コースは計14名によって開始されました。そのうち男性は9名、女性は5名。世代別とみると、半分は20〜30歳代の方々、もう半分は40〜50歳代の方々といった具合です。男女比、年齢比ともに非常にバランスの取れた参加者構成となりました。ちなみに私は王国の臨時スタッフとして参加しました。

[1日目]
1日目は、朝10時に開校式を終えた後、山小屋で1人ずつ自己紹介を行いました。公務員、大学教授といったお仕事の方をはじめ、中にはカフェ経営を最近はじめたという方など、とても多彩な顔ぶれとなりました。「山が好き」という方がいれば、「職場のストレスがきっかけで、心の病気を発症してしまい…」など、帰農塾を知ったきっかけや参加理由は個人によって様々なようです。

1日目は講義を中心にプログラムが組まれています。昼食後、高野孟先生より早速、「日本の農を考える」という講義がおこなわれました。高野先生は生産者と消費者の間に無数の中間業者が介在する流通システムを問題視し、「自分で食べるものは自分で作る」という当たり前の原点に立ち返ってはどうか、その意義を考え直してみてはどうか、というお話を熱心に語ってくれました。

その後、王国の代表理事である石田三示さんに案内され、大山千枚田や大山不動尊、里山の手作り民家などを見学して回りました。実は石田さん、NPO法人大山千枚田保存会理事長も同時に務めています。「棚田の保全だけが目的ではない。地域の暮らしあってこその保全」、「都市農村間の交流を促進して、地域の暮らしを作ることが何よりも重要」という言葉に心を打たれました。

夕食後、「半農半X」の実践者である林良樹さんの講義がおこなわれました。林さんは現在、鴨川にある自宅で農作業を営むかたわら、本職であるイラストレーターも続けています。農的生活を「自分で生み出す、真のクリエイティブ」と表現していたのが、とても印象的でした。

1日目の最終講義は、日本を代表する大物歌手であり、王国の創始者・藤本敏夫さんの妻でもある加藤登紀子さん。生前の藤本敏夫さんのVTRを鑑賞後、「もしここ(王国)がなかったら、私と彼はつながることができなかった。私の子供たちは彼とつながることができなかった」と登紀子さんは涙目に語り、私たちも思わずもらい泣きをしてしまいました。

[2日目]
2日目は体験実習を中心にプログラムが組まれています。朝食後、王国スタッフの藤本ミツヲさんによる指導のもと、苗の植え替え作業を体験しました。2センチほどの小さな穴が無数にあいた小ケース。その1つ1つの穴の中には、キャベツとブロッコリーの新芽がこっそり顔を出しています。その新芽1つずつを、手のひらサイズのポットに丁寧に移し替えていきます。

次は鶏の解体実習をおこないました。講師は博物館でお仕事をされている浅田正彦さん。私も参加者の一人として作業をおこないました。まず、首に刃物を入れて息の根を止めますが、しばらくは誰かが鶏を素手で抑えていなければなりません。死ぬ直前に鶏が軽い痙攣を起こすからです。しっかり抑えないと、周りに血が飛び散ってしまいます。「ブルブル!」。刃物を入れてから2〜3分後、その痙攣は突然きました。あまりの力強さに耐え切れず、私は眼鏡に返り血を浴びました。

昼食後、みんなで稲刈りをしました。5月の田植えイベントにも参加した木村さんは、「僕が植えた稲が育っているはずなんだよ」と意気揚々な様子。お天気にも恵まれ、出だしはなかなか快調でした。稲は3〜4株を刈ると1束にまとめます。さらに、その1束ずつを4セットで1組にしてワラで縛っていきます。ところが、その作業がなかなか大変です。ワラで縛るたびに腰を下ろさなければならず、立ったり座ったりの連続。作業後、木村さんをはじめ、みんなとてもゲッソリ。お疲れ様です。

夜は山小屋前の屋外テーブルで、夕食を兼ねた交流会をおこないました。にんじん、なす、おくら、ししとうなど、王国の野菜をふんだんに使ったお料理がふるまわれます。お昼に解体した鶏を使った料理も登場です。「じゃあ、みんなで乾杯!」。石田さんの号令のもと、夜遅くまでお酒を酌み交わしました。

[3日目]
帰農塾も今日でいよいよ最終日。朝食後、増刊現代農業編集長である甲斐良治さんの講義がありました。まず、宮城県の「鳴子の米プロジェクト」を題材にしたドラマを鑑賞。「米農家の生産者価格を守ろう!」と努める地域社会の団結に心を打たれました。昨今、お米の消費者価格は大きな変化がないにも関わらず、米農家の収入は年々減少しています。商社をはじめとする中間業者による買い叩きが原因の1つにあるようです。「自分のできる範囲で何ができるかを考えよう」、「お米の買い方、選び方を変えるなど、都市に住む人々にもできることはある」と甲斐さんは力強く語ってくれました。

その後は2泊3日間の感想を兼ねた討論会とレポート作成おこない、今年の里山帰農塾9月コースも閉校式を無事むかえました。参加者のみなさん、今回の帰農塾はいかがでしたか。各々で、貴重な何かをきっと持ち帰っていただけたのではないかと思います。

[イベントを終えて]
最後に私がこの2泊3日間で感じたことを二点ほど付け加えて、このレポートを締めたいと思います。

1つ目は、「毎日の食卓の裏側には必ず生産者がいる」ということです。夕食の際、ある参加者の方が「このお料理で使っている野菜は何ですか?」と他のスタッフの方に尋ねました。私はその質問を聞いた際、思わず新鮮に感じてしまいした。なぜなら私は、普段からそのような疑問すら抱かず、黙々と食事をとることが多いからです。大学のゼミ活動で夜の帰りが遅くなることが多く、連日のように牛丼やハンバーガー、ラーメンを食べています。自宅にいても携帯メールをしながら食事をすることがよくあります。都会の生活に慣れきってしまい、いつの間にか「何の食材が使ってあるのか、その食材は誰が作ったものなのか」ということに無頓着になっていました。しかし私が米を食べる際は、米を刈った農家の方が必ずどこかにいる。私が鶏肉を食べる際には、鶏を精肉にした方々が必ずどこかにいる。この帰農塾で当たり前のことに再び気づかされました。

2つ目は、「なぜ今、帰農なのか。なぜ皆、農的生活に憧れるのか」ということです。王国スタッフの方に聞いたところ、帰農塾の参加希望者は年々増加しているそうです。また、この王国以外の地域でも、帰農セミナーなるものがブームになりつつあるそうです。では、なぜ今、帰農がブームになっているのでしょうか。なぜ皆、農的生活に憧れるのでしょうか。もちろん、個々によってその理由は異なります。しかし、帰農がここまでブームになっていることを考えると、個々の理由を束ねる構造的背景が、この現代社会の中に潜んでいる気がしてなりません。その構造的背景とは一体、何なのか。その答えとして、「競争社会」や「情報化社会」、「仕事と生活の分離」などが挙がると思っていますが、もう少し考えてみたいです。とにかく農的生活への憧れは、私たちが現代社会からの逃避もしくはオールタナティブを求めていることの表れだと思えてなりません。現代社会から黄色信号がともっています。


帰農塾秋 参加者レポート(しばらくお待ち下さい)





































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